BtoBマーケティングにおいて、導入事例は「キラーコンテンツ」とも呼ばれ、もはや必須コンテンツといえるだろう。

本記事では、BtoB企業が作るべき導入事例コンテンツの作り方について解説する。

BtoBマーケティングにおける導入事例

BtoBとBtoCの違い

人の違い

BtoBでは「意思決定者が複数人」「購入者と利用者が必ずしも一致しない」「合理的な理由で決定する」という特徴がある。

また、購買者と利用者以外に「(選定)担当者」が存在するケースも多い。

これにより導き出されるアプローチ手法は以下の通りだ。

  • 利用者だけでなく、購買者・組織にとってのメリットを訴求する
  • 担当者から購買者に稟議を上げやすいフォーマットを用意する

意思決定の違い

BtoBでは「課題解決のために」「機能や実績を重視し」「長い時間をかけて」意思決定をする傾向にある。

さらにBtoB商材は「高額で」「情報量が少なく」「一度導入してしまうと後戻りができない」という特徴もあることから、最終的にはその企業への「信頼」によって購買を決定する。

よって、以下のようなアプローチをする必要がある。

  • 「〜ができる」ではなく、「〜ができるから〜の課題が解決する」という訴求をする
  • 「課題解決のストーリー」を作る(問題提起→結果→実証→信頼→安心)
  • 定量的な「論理的な証明」だけでなく、定性的な「信頼感」も訴求する
  • 一貫したメッセージとビジュアル展開、良質なコンテンツでブランドを構築する

導入事例の役割

これらのアプローチを営業が行うと以下のようになる。

  1. ユーザーの検討段階に合わせて、継続的に興味関心を持ってもらう
  2. 課題を引き出し、解決策を示す
  3. 複数の意思決定者に対して、客観的事実をもって商品機能・メリットを納得してもらう
  4. ユーザーに信頼してもらう

導入事例では、特に③「複数の意思決定者に対して、客観的事実をもって商品機能・メリットを納得してもらう」という点において優れている。

BtoB商材の特徴である「高額で」「情報量が少なく」「一度導入してしまうと後戻りができない」というユーザーの懸念に対して、導入事例という形で「第三者の評価=レビュー」を提示できるという点において、唯一無二のコンテンツであると言える。

導入事例のメリット

ユーザーにとってメリットの多い導入事例であるが、次のような「自社のメリット」も存在する。

資産価値がある

BtoB商材は一般的に製品サイクルが長く、顧客に対する付加価値が短期間で大きく変化することはないため、導入事例の作成はそれなりに手間とコストがかかるが、一度作ってしまえばその導入事例はマーケティング資産として自社に貢献し続ける。

あらゆる購買プロセスで利用できる

リード獲得前の見込み客に対して、実際の顧客への導入効果を顧客視点で語る導入事例を提示することで、不安感の大きい担当者や購入者にとって導入後のイメージを容易にする。

リード獲得後の見込み客に対しても、比較検討・導入決定する際の判断材料として提供することで、担当者からの信用性の高い稟議資料として利用してもらうことができる。

顧客・市場調査ができる

普段行っている「顧客満足度調査」のようなアンケートでは聞けない顧客の本音を聞くことができ、そのなかにビジネス上の大きなヒントが隠されていることがある。

営業資料として活用できる

従来型のチラシやカタログなどは営業色が強く、その商材のメリットのみが書かれていることから見込み客の信用を得られない事が多いが、導入事例では「顧客視点」の情報であるため、比較的抵抗なく受け入れられやすい。

自社内の教育ツールとして活用できる

導入事例は顧客の言葉で商品メリットや導入効果が語られているため、新入社員や中途社員に導入後のイメージをつけてもらいやすくなる。

導入事例の役割

ターゲットは「比較・検討フェーズ」の顕在層

導入事例はその特性上、「まだ自社の商材を知らない(課題が明確になっていない)ユーザー」には効力を発揮しにくい。
(導入事例が「認知」のきっかけになることはある)

ターゲットになりうる層は、

  • 準顕在層:悩みはあるが解決策は不明
  • 顕在層:悩みを解決したい
  • 明確層:特定の商品・サービスを使用したい

が考えられるが、準顕在層へのアプローチは「課題を引き出し、解決策を示す」コンテンツであることが望ましいため、その役割は他のコンテンツに任せるとして、ここでは悩みが明確になっており情報収集を行っている「顕在層」のユーザーをターゲットとする。

導入事例の目的は「CVの獲得」

ターゲットが「顕在層」であるということは、検索行動において指名検索(商品・サービス、ブランド名)や何かしらのミドル・スモールワードで自社サイトに流入してくる可能性が高い。

ここで錯誤しやすいのが、導入事例の目的を「集客」においてしまうことだ。

もちろん、導入事例コンテンツでも集客は可能だが、本質的な目的はその導入事例コンテンツを閲覧したユーザーをなにかしらのCV(資料請求やお問い合わせなど)につなげることだ。

ここを履き違えると、SEOを意識するあまり陳腐なコンテンツになってしまいかねないので注意する。

導入事例の制作指針

導入事例は何件作ればいいのか?

事例コンテンツは「最低12件が必達で30件の制作を目指す」というのがベストプラクティスだ。

また、ユーザーが自社に類似した事例を探せるユーザーインターフェースを実装することも重要である。

事例コンテンツ数とCVRの関係

  • 少なくとも12件は用意する
  • 30件まではCVRの改善効果が大きい

各UIとCVRの関係

  • 事例詳細ページに資料請求の導線を設置する
  • 事例トップのファーストビューで目立つ導入実績のアピールをする
  • 事例トップは業界・ニーズ別事例検索機能を設置する

導入事例はどういった企業がいいのか?

自社のビジネスモデルに応じて掲載する企業特性を変更する必要がある。

  • 大手企業の顧客を増やしたい:大手企業の導入事例を制作する
  • 中小企業の顧客を増やしたい:中小企業の導入事例を制作する

ここで注意すべきなのが、「既存顧客に中小企業が多い場合」に大手企業の導入事例掲載を検討するときだ。

中小企業の担当者が自社の導入事例を見たときに、大手企業の事例しか掲載されていなければミスマッチを感じて離脱してしまう可能性が高まる。

例えば、中小企業 2社の取引と大手企業 1社の大口取引の売上が同じである場合に、大手企業の導入事例を掲載したことで大手企業からの問い合わせが月に 2件増えたものの、中小企業からの問い合わせが 5件以上減少してしまっては売上が減少してしまう。

また、導入事例を制作する段階で「ヒアリングしやすい=作りやすい」顧客の導入事例から作り始めてしまいやすい点にも注意が必要だ。
必ずしもヒアリングしやすい顧客の導入事例が、見込み客に効果的な事例であるとは限らない

重要なのは、見込み客が「自分ゴト」として捉えられる導入事例を見せることで、「自社にも導入できそうだ」と共感し、導入後イメージをつけてもらうことにある。

導入事例の制作

導入事例の制作に際して、まずは対象顧客に取材をするところから始める必要がある。

以下の流れに従って導入事例を制作していく。

取材の流れ

  1. 顧客の選定
  2. 概要シートの送付と取材アポの獲得
  3. ヒアリングシートの送付・返送
  4. 取材・撮影
  5. 原稿作成・校正
  6. 顧客側でのチェック
  7. 修正・掲載

顧客の選定

導入事例の顧客を選定するときは、「アポイントのとりやすさ」といった易きに流れるのではなく、以下の評価軸をもって選定するべきである。

  • 製品の知識
    • 製品やサービスよく理解し、活用できている顧客は、自社がPRする以上に顧客目線で説得力のある説明をしてくれる
  • 模範的な効果
    • 顧客が求めている結果をすでに出している企業の事例は強力
  • 有名な企業
    • 大手企業や有名ブランドの導入事例は信頼性を高めることにつながる
    • 大手企業は業界のリーダー企業であることが多く、追撃をするフォロワー企業が多数存在する
  • 乗り換え顧客
    • 自社と契約する前に競合他社と契約していた顧客の導入事例を作成すれば、自社の競争力を強調し、潜在顧客の意志決定を自社に有利な方へ促すことができる

概要シートの送付と取材アポの獲得

導入事例企業の候補が定まったら、以下の項目について顧客と同意を交わす。

  • 導入事例の作成目的と用途に関する明確な説明
  • 導入事例に含める予定の顧客情報(会社名、ロゴ、職位、写真等)の定義
  • 導入事例以外に顧客に協力してほしい内容の説明
  • 報酬に関する情報

まずは顧客から社内承認をもらう必要がある。

承認が出たら、双方の希望に沿った日程を設定し、事前にヒアリングシートを送付する。

ヒアリングシートの送付・返送

なんの準備もなしにいきなり取材をしたところで得られる情報は限られる。

特に定量的な情報は取材当日に聞き出すのではなく、可能な範囲で事前にヒアリングシートで伝えてもらうほうがお互いの負担が少なくて済む。

  • 顧客の課題
    • 従来の業務においてはどのような課題がありましたか?
    • その課題の要因は何でしたか?
    • 課題解決のためにいつ頃から検討を始めましたか?
  • 製品・サービス選定の理由
    • 今回「〇〇(製品・サービス名)」を選定するに至った決め手はなんでしょうか?
    • 選定の際、他社の製品を検討されましたか?
    • その際、当社製品が優れていた点は何でしょうか?
  • 導入効果
    • 製品・サービス導入後の定量的な効果について、具体的な数値でお聞かせください。
    • 同じく定性的な効果について、現場の声などをお聞かせください。
    • その他、期待していた以上の効果があればお聞かせください。
  • 今後の展望
    • 導入した「〇〇」について、今後の活用をお聞かせください。
    • その他、貴社ビジネス展望についてお聞かせください。

ヒアリングシートは送付しっぱなしではなく、必ず取材当日までに返送してもらい、内容を確認してから取材に臨むこと。

取材・撮影

事前にとったヒアリングシートの内容を確認しつつ、その場でしか聞き出せない情報を引き出す。

顧客のビジネス

顧客の現在の課題と目標、およびそれらが業界の動向にどのように合致しているかを十分に理解する。

  • 事業年数はどのくらいですか?
  • 従業員数は何人ですか?
  • 部門における現在の目標は何ですか?

ソリューションの必要性

説得力のあるストーリーを語るには背景が必要。
背景を明らかにすることで、自社のソリューションが顧客のニーズにどのようにマッチしているかが明らかになる。

  • どのような課題や目標がきっかけでソリューションを探そうと思われましたか?
  • ソリューションが見つからなかったらどうなっていたと思われますか?
  • 弊社の前に試して上手くいかなかったソリューションはありますか?
  • あるとしたらどのような結果になりましたか?

意思決定プロセス

顧客が自社と契約するに至ったプロセスを理解することで、潜在顧客の意志決定プロセスを誘導することが可能になる。

  • 弊社の製品またはサービスをどのようにしてお知りになりましたか?
  • ソリューションの選定プロセスにはどなたが関与されましたか?
  • 各オプションを評価するにあたり、最も重要視したものは何でしたか?

ソリューションの導入

実際の導入プロセスにおける顧客の体験にフォーカスした質問を行う。

  • 実際に導入して開始するまでにどのくらいかかりましたか?
  • それは期待に沿っていましたか?
  • このプロセスにはどなたが関与されましたか?

ソリューションの実施

顧客が自社の製品やサービスをどのように使用しているかを理解する。

  • 製品またはサービスで特に頼りにしている部分はありますか?
  • どなたが製品またはサービスを使用されていますか?

結果

ここでは定量的な成果を聞き出す。
具体的な数字が多ければ多いほど理想的。

  • 製品またはサービスは、時間の削減や生産性の向上にどのように役立っていますか?
  • どのような形で御社の競争力を強化していますか?
  • 重要指標であるA、B、Cはどのように変化しましたか?

自社の準備は万全でも、顧客がそうとは限らない。

次の項目に注意して顧客が話しやすい環境を整える。

  • 取材
    • まずは顧客(インタビュイー)に喋らせる
      • 事業内容やインタビュイーの業務内容に関する質問は、答えを用意しやすい
    • インタビュイーは2名にする
      • 同僚がいた方が、緊張感もほぐれ、話をしやすくなる
      • 1名よりも2名の方が、より多角的な意見をもらえる
    • 数値的な成果を聞き出す
      • 定量的な成果については、インタビュー時に明確な回答を得られない
      • その場は保留とし、後日、インタビュイーからメールなどで回答してもらう
  • 撮影
    • 取材中の話しているカット
      • 取材冒頭からいきなり写真撮影を始めると、写真を取られることに不慣れな顧客は抵抗を感じるかもしれない
      • 可能な限り、場を暖めてから「ついでに」写真を撮影するという流れが望ましい
    • 社名ロゴなどを背景にした正面写真
      • 事前に社名・ロゴ・担当者の名前と写真を掲載する許可が必要

撮影写真のサンプル

担当者紹介用の写真、取材中の写真を複数のアングルで撮影する。

笑顔の写真がないと、「言わされている感」が出てきてしまうため、可能な限り自然な笑顔の写真も撮影する。

導入事例写真:担当者の紹介写真
背景は現場や会社ロゴが映る社屋などが望ましい
導入事例写真:取材中の写真
取材中の写真
導入事例写真:取材中の写真(笑顔)
担当者の笑顔の写真があると尚良し

また写真以外にも、実際のインタビュー風景を動画で撮影し掲載するというのも効果的だ。

原稿作成・校正

情報が集まったら原稿を作成する。

ここでは実際のWebサイトに掲載することを意識せずに、以下の項目を書き出せるだけ洗い出す。

  • タイトル
    • 最も説得力のある成果を強調した短いタイトルにする。
  • 概要
    • ストーリー全体の概要を2~4文で示す。
    • その後、成功を実証する要素を2~3つ、箇条書きで加える。
  • 顧客の紹介
    • 顧客(個人または企業)を紹介する。
    • 顧客のFacebookプロフィールやウェブサイトから引用してもよい。
  • 課題
    • 自社の製品またはサービス導入前の顧客の課題および設定していた目標を説明する。
  • 提供したソリューション
    • 自社の製品またはサービスが顧客の課題をどのように解決したかを説明する。
  • 顧客の成果
    • 自社の製品またはサービスが、顧客個人または顧客企業にどのような影響をもたらし、目標達成にどのように貢献したかを説明する。
    • 自社の貢献度を示せるような数字を含める。

顧客側でのチェック

導入事例の原稿が作成できても、そのまま公開してはいけない。

必ず顧客に事例の記載内容・写真などに問題がないかを確認してもらう。

導入事例の構成

事例一覧ページ

導入事例(一覧)
事例一覧ページの構成例
  1. メインビジュアル
    • ピックアップした導入事例を配置する(カルーセルで省スペースかつ数を見せる)
  2. 検索
    • 事例数が多いときは検索機能を実装する
    • 業種・業務、従業員数、課題、導入効果など見込み客が自分ゴトとして捉えられる軸を検索軸とする
  3. 一覧
    • タイトルで改善内容をわかるようにする
    • 検索フィルタの軸で使用した切り口を提示する
    • 写真は良質なものを提示する
    • 信頼につながる実績と、自分ゴト化できる身近な実績の両方を揃える
    • 大手企業あるいは中小企業に偏りすぎないようにする
  4. CTA(Call to Action)

事例詳細ページ

導入事例(詳細)
事例詳細ページの構成例
  1. メインビジュアル
    • タイトルで改善内容がわかるようにする
    • 検索フィルタの軸で使用した切り口を提示する
    • 写真は良質なものを提示する
    • SNSでのシェアを期待してボタンを設置する
    • 顧客の会社概要やビジョンを丁寧に伝える
  2. 本文
    • 第三者評価になるよう、担当者の声として掲載する
    • 導入の背景、選定理由、成果、今後の展望や期待することを記載する
    • 具体的な数字を記載する
    • 流し読みでもわかるように文章は簡潔にまとめ、適度に写真や図表を配置する
    • SNSでのシェアなどを期待してボタンを設置する
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    • 似たような事例を並べて、自分ゴト化を狙う
  4. CTA
    • 事例と関連する資料ダウンロードを用意する

良質な導入事例の例

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  • 導入効果がわかりやすいタイトル
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